【感想】本と鍵の季節 / 米澤穂信【小説】

雑記

本の紹介

米澤穂信 / 集英社

「氷菓」、「小市民」シリーズなど、青春ミステリの名手としても名高い著者の生み出した、新たな主人公たちの活躍が楽しめる連作ミステリ短編集。
2018年集英社より刊行。2021年には文庫版も登場。

各章のタイトルは
・913
・ロックオンロッカー
・金曜に彼は何をしたのか
・ない本
・昔話を聞かせておくれよ
・友よ知るなかれ

こんな本

  • 図書委員の高校生2人が探偵役を務める青春ミステリ
  • 短編集なので空いた時間にサクッと読める
  • テンポの良い会話と謎解きが楽しめる

あらすじ

”堀川次郎は高校二年の図書委員。利用者のほとんどいない放課後の図書室で、同じく図書委員の松倉詩門(しもん)と当番を務めている。背が高く顔もいい松倉は目立つ存在で、快活でよく笑う一方、ほどよく皮肉屋ないいやつだ。そんなある日、図書委員を引退した先輩女子が訪ねてきた。亡くなった祖父が遺した開かずの金庫、その鍵の番号を探り当ててほしいというのだが……。
放課後の図書室に持ち込まれる謎に、男子高校生ふたりが挑む全六編。
爽やかでほんのりビターな米澤穂信の図書室ミステリ、開幕!”
(Amazon販売ページより引用)

図書委員の高校2年生、堀川次郎と松倉詩門。
彼らが出会う日常の謎を、それぞれの知識と感性から推理し真相を導く物語。
全6章から成る連作短編で、高校生らしからぬ達観した探偵役2人の掛け合いと、
少しビターな結末が魅力の作品。

各章のあらすじ

913

図書室で暇を持て余していた堀川と松倉に、委員を引退した浦上先輩が”アルバイト”を持ちかける。祖父が遺した金庫の番号を突き止めてほしいという依頼に堀川は興味を示すが、松倉はどこか不満気な様子を見せる。結局先輩の依頼を受けることになった2人だが、先輩やその家族の言動の違和感から、徐々に雲行きが怪しくなり…。

ロックオンロッカー

ひょんなことから一緒に髪を切りに行くことになった堀川と松倉。美容院の客足の少なさや店長の態度を不思議に思った2人は同じ結論に至るが、何事もなく施術は終わり店を後にする。そこで松倉がふと、あることに気が付く。

金曜に彼は何をしたのか

素行不良で有名な2年生を兄に持つ図書委員の1年生・植田からの相談で、兄にかけられた嫌疑を晴らすべく調査を行うことになった堀川と松倉。レシートや持ち物から植田兄の足跡を追う内に、松倉は植田家の違和感の正体に気付く。そして堀川も、いつもと違う行動を取る松倉に違和感を感じていて…。

ない本

自校の3年生が自殺したというニュースが学校中を騒がせている中、長谷川という生徒が本を探しに図書室を訪れる。久々の真っ当な図書室利用者に浮足立つ堀川だが、長谷川が探していたのは自殺した生徒が最後に読んでいた本だった。

昔話を聞かせておくれよ

松倉の唐突な「昔話」から、6年に渡る「宝探し」に手を貸すことになった堀川。宝の在り処を示す手がかりは、松倉の父がのこした僅かな手回り品のみ。松倉とは異なるアプローチで謎に迫る堀川は手詰まりの状況を打破することができるのか。

友よ知るなかれ

松倉の宝探しに一区切りついた時、堀川には疑念が残っていた。起こり得ないことが起きたことと、松倉がふいに発した言葉から1つの仮説が浮かんだ。それを確かめるべく図書館を訪れた堀川は、松倉が語った「昔話」の真相に辿り着く。

感想

短編集ということもあって話のテンポが良く、一気に読み終えた。
探偵役2人のキャラクターも魅力的で、高校生らしい未熟さもありながら、
年齢にそぐわない達観した物の見方というギャップも面白かった。

主人公2人は探偵と助手という関係ではなく、
それぞれ違う視点から真相に迫る姿が本作の特色。
特殊な環境や設定を持たない、ごく平凡な高校生が主人公という意味で、
著者の人気作「氷菓」「小市民」シリーズとは異なる趣があり、
大人も楽しめる青春ミステリとなっている。

登場人物たちの掛け合いが軽妙で、
言葉遊び・皮肉・雑学を交えたやり取りが読んでいて心地良い。
堀川・松倉の有する手掛かりは全て読者に提示されているので、
謎解き部分もフェアに感じられた。
各章の結末はビターだが決してイヤミスという訳ではなく、
程よい寂しさが残る爽やかな読後感を味わえる。

最終章で、遠くへ行こうとする松倉に堀川が放ったセリフが印象的で、
読者視点でもそうあって欲しいと思わずにはいられなかった。

また続編となる『栞と嘘の季節』が2022年に刊行されている。
こちらは長編で、本作の内容を踏まえた表現がたびたび登場するので、
まずは本作から読むことをお勧めする。

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